自作PCに未来はない

vclub2007-05-07

USER'S SIDE 小林 敏博氏
後日読みますね。w


自作PCに未来はない」 (1/3)

PCパーツショップは現在もアキバの“看板”として君臨しているが、その一方で閉店する店舗が相次ぐなど、業界全体の縮小傾向は目に見えて加速している。この状況はいつまで続くのか。

USER'S SIDE 小林 敏博氏。前職から36年間、コンピューターに関わる仕事に従事している Windows 95発売前後から現在まで、PCパーツショップは10年以上もアキバの看板を背負い続けている。最近はアニメやフィギュア、メイド喫茶などのサブカルチャーショップが台頭しているが、第2回のインタビュー(「“メイドさん”の現在と未来」)を踏まえると、次代を担う産業と断定するのはまだ早いと思われる。ならば、PCパーツショップは今後も“アキバの顔”であり続けるのか。第3回は、PCパーツショップにアキバの未来を語ってもらった。

 協力していただいたのは、1993年に設立したアキバの老舗ショップ・USER'S SIDE。創業時からのスタッフである小林氏に、アキバの現状から日本の自作PC市場の問題点に至るまで、歯に衣着せぬ率直な意見を伺った。

日本の自作PC市場に未来はない
 「数万円のCPUを販売しても1000円以下の利益にしかならない」とは、昔からPCパーツショップの店員さんが口にする恒例の台詞だ。Windows 95と98の登場で大ブレイクした自作PC市場は、一方で当事者から“儲からない”という愚痴がついて回る不思議な業界でもある。これが単なる悲観主義でないことを、小林氏は力説する。

――PCパーツの安売り競争が続いている感がありますが、自作PCブームが去った現在、いつかは流れが変わるのでしょうか?

小林 この業界がなくなるまで終わらないでしょう。問題はこの業界がブローカー(※1)とバッタ屋(※2)で成立していること。そもそもこの業界は一種のファイナンス商売。PC業界と思ってはいけない。金儲けしか興味のない連中が、たまたま利益率の高いPC関連商品を扱っているに過ぎません。そして何の規制もないから、飲食店やほかの品物をあつかう業界よりも好き放題できる。つまり、自分さえ儲かれば何やってもいいという風潮になっている。

※1 ここでは、メーカーと小売店を取り次ぐ卸業者を指している。

※2 ここでは、まがい物や不正な品物を正規品のように販売する一部の小売店を、多少の罵倒を含めて指している。

注記を一部訂正いたしました。

――普通に営業しては、小売店が利益を得る状態ではないということでしょうか?

小林 そうです。小売店の中にはバッタ屋がいる。あるショップは定格140ワットの電源に250ワットのラベルを貼って売っていた。こちらも忙しいからいちいち突っ込まないけど、普通の業界じゃ考えられない行為じゃないですか。そこまでひどいのはめずらしいですが、現在ならVista Premiumマシンなのにメモリ512Mバイトのラインアップを用意して“激安Vistaマシン”を標榜するショップはザラ。PCをあつかうことに誇りがあれば、そんな売り方できないでしょ。卸業者にしろ、小売店にしろ、コンピューターのことをよく知っている経営者が少なすぎるのが問題だと思っています。

――そのような状況になってしまった原因は?

小林 Windows 95が登場した前後、「自作は安い」と知られ最初の自作PCブームが起こった頃、あるPCパーツショップがアキバに進出して、安売り攻勢を仕掛けたのがきっかけでしょうか。当時は不合理にPCパーツが高かったので、業界に価格破壊を起こしたそのショップの意義は確かにありました。

 ただ、成功のあまり一線を越えてしまったんです。まともな利益を確保できるラインを越えて安売りを続けてしまった。こうなると、周囲のショップも限度を超えた価格に合わせていくしかなくなります。すると、どこのショップも、卸価格に上乗せする利益がどんどん薄くなっていく。それでも安売りは止まりませんから、現在に至るまで業界全体で苦しみ続けることになったんです。

 これは一般論だけど、“価格を破壊するとその産業自体が壊れ”ます。自作PC市場はその典型になってしまいましたね。また、“ディスカウンター(安売り業者)が生き残った歴史はない”という定理も、ぴったり当てはまります。

――PC-Successが閉店したのも、自然の流れということですか?

小林 PC-Successは安売りの典型例だったからね。2年前から倒産の噂が立っていましたが、一度は盛り返したようです。業界全体の不況もあって、結局駄目になりましたが。正直、安売りに注力しているショップは他人事ではないでしょうね。


2月に突然閉店したPC-Successの店舗跡。4月末になって、ようやく店内整理がはじまった(写真=左)。USER'S SIDE秋葉原本店は、旧PC-Successの1つ上のフロアにある。上下のショップが好対照の戦略をとっていた。写真はPC-Successが営業中の頃に撮影(写真=右)
――ちなみに自作PC市場が「儲からない」「危機的状況にある」のは、世界的な情勢なのでしょうか?

小林 自作PC市場は世界的にも縮小傾向にありますが、急激に低下しているのは日本だけです。先に述べた過度の安売りが蔓延したことが大きい。さらに、日本は家電やケータイが飛び抜けて優秀です。ネットブラウジングやTV視聴/録画程度なら、PCよりも家電やケータイを使ったほうが便利で分かりやすい。つまり、日本のPC業界は、世界的に見ても一般層を取り込みにくい環境にあるわけです。わざわざ自分でパーツを組み立ててまでPCを使う人はさらに限られる。それこそ趣味の世界です。PCパーツショップに引っ張られるように完成品のPCも安くなり、「自作PCは安い」の前提が崩れたいま、ニーズが減るのは自然でしょう。
http://plusd.itmedia.co.jp/pcuser/articles/0705/07/news040.html

自作PCに未来はない」 (2/3)

8年叫び続けて実らない“2つの解決策”
 絶望的なコメントが連発するが、小林氏も指をくわえて傍観していたわけではない。USER'S SIDEでは、昔から高付加価値なPCパーツを並べており、ハイエンド志向のユーザーや法人層を取り込む努力を続けている。最近は高性能なPCでこそ楽しめる3Dゲームの取り扱いも始めた。また、同業者に対しても8年前からホームページを通してメッセージを送り続けているという。


USER'S SIDEでは、2007年3月から、洋モノのPC洋ゲームソフトを本格的に扱うようになった(写真=左)。「PCという高級品を扱うにふさわしい店内」(小林氏)をめざして、店内のレイアウトは見やすさと清潔感を大切にしているという(写真=右)
――日本の自作PC業界が、再び盛り上がる可能性はあるのでしょうか?

小林 基本的には、ない。PCパーツを適正価格に戻して業界の体力を回復させる方法は2つ考えられますが、実現しないでしょうね。

 その1つは、ベンダーが、馬鹿みたいに安い価格で売るショップへは商品を卸さないようにすること。そして、有力店が常識的な値段を守ることです。ベンダーの売り上げは一時的に落ちますが、有力店には卸し続けられるので、半年間我慢すれば状況は改善されます。無謀な安売りを仕掛けるショップも淘汰されて、自然と適正価格を守る風潮ができあがる。しかし、苦しい半年間の間にギブアップする会社が1つでもあると成功しません。規制も何もないこの業界で、足並みをそろえて成功させることは、奇跡に近い。

 もう1つは、ショップを2種類に分ける方法です。“PCディスカウントスーパー”、“PC専門店”と、明確にカテゴリを分けてしまうのです。価格とサービスの違いが看板から分かるようになり、来店する人も判断をつけやすい。ファーストフード店と高級料理店のような関係を作るわけです。専門店では高級パーツを扱うなりの知識と対価を確保できます。棲み分けができると、少なくとも専門店ではマトモな価格が保てます。

――それでも店頭に同じ商品が並んでいる限り、差別化できないのでは? つまり、選ぶのは消費者です。

小林 おのずと変わっていきますよ。例えば、スーパーマイクロの高級マザーをファーストフード店に並べても売れないでしょう。専門の高級店で、エントリー向けパーツを置いても注目されないのと一緒。取り扱い商品も自然と棲み分けができてきます。

 ただ困るのは、ディスカウントスーパーが、売れないのに高級パーツの価格だけを提示すること。そうすると、棲み分けがいつまでたってもできない。結局、すべてのショップが協力しあって成功する方法なので、1つめの方法と同じく絵空事でしかないわけです。
http://plusd.itmedia.co.jp/pcuser/articles/0705/07/news040_2.html

自作PCに未来はない」 (3/3)

5年後どころか、3年後も危うい
――それでは、5年後のアキバで、PCパーツショップはどのようになっていると思いますか?


USER'S SIDEに掲げられているPOP。店内を歩けば、小林氏のメッセージがそこかしこで見つかる小林 この業界の縮小傾向は変わらない。5年後――2012年を待たず、3年後には大きく様変わりしているでしょう。完全になくなることはないでしょうが、ブームの去ったオーディオショップと同じ道をたどると思います。

――その代わりに台頭するのは、サブカルチャー系のショップでしょうか?

小林 そうかもしれませんが、サブカルチャーは“サブ”でこそ存在意義がある。メインカルチャーになるのは、アンバランスです。次代のメイン産業は想像できませんが、いずれにせよ、5年後に主役を張るのが自作PCでないことは間違いない。

――その場合、USER'S SIDEは営業を続けますか?

小林 形態は変えているでしょう。コンシューマー向けでは、ゲームや水冷などのマニア向け商品のみをあつかっているとか。もう秋葉原という土地に魅力は感じていないので、別の場所に移転しているかもしれませんね。移転先の理想は、銀座です。

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 老舗PCパーツショップが想像する5年後の秋葉原に、明るい未来を描く材料は少ない。しかし、小林氏の言う“PC専門店”がほかの地域に移っていく可能性がある一方で、同氏が“絵空事”と呼ぶ「自作PCが生き残る方法」が実現する可能性も完全には否定できない。あるいは、別の打開策を見つけて再び盛り返すショップが登場する場合だってある。

 いずれにせよ、最初にアクションを起こすのがPCパーツショップ自身なのは間違いないだろう。今後アキバがどのように変化していくのか、注目していきたい。
http://plusd.itmedia.co.jp/pcuser/articles/0705/07/news040_3.html