トゥバタハクルーズ紀行

まぁネタとして一度は行っとこう。

隔絶された世界遺産の海 トゥバタハクルーズ紀行(1)

ダイバーならば一度は憧れる世界遺産の海、トゥバタハ・リーフ季節風の影響で、ここを訪れることができるのは3月中旬から6月中旬の約3か月だけ。その今年最後のトリップに行ってきた。

わたしがダイビングを始めたのは、ほんの4年前。友人に手配してもらって沖縄の慶良間諸島で体験をしたのをきっかけに、その後オーストラリアのエクスマスやコーラルシー、モルディブパラオと旅してきた。初めて沖縄に行った時には、海の色は本当に青いんだとシンプルに感動した(だってわたしの生まれ(主に)育った日本海は夏でも灰色)し、その海の色がオーストラリアの西と東で全然違う青だということも、行ってみて初めて判る発見だった。わたしは地上で踊るダンスも好きなのだけれど、エクスマスの海中で、流れに乗って小魚と一緒に踊ったダンスは地上のそれとは比べられない体験だ。自然相手の旅では、動かないもの(美術館や博物館、古いお城や庭園など)を観に行くのと違って、いるはずの魚が全然見つからないこともあるし、海が荒れて目的地にたどり着けないこともある。たどり着いたのはいいけれど、わたしの方がひどい船酔いで動けなかったという情けない想い出も。それでも次はどんな青に出逢えるのだろうと思うと、旅に出ずにはいられない。

今回訪れたトゥバタハ・リーフは、スールー海の真ん中、フィリピンのパラワン州都プエルトプリンセサから南東150kmのところにある。トゥバタハへの唯一の交通手段は、プエルトプリンセサを起点に3月から6月の間運航するクルーズ船。トゥバタハ管理事務所によれば、今年、クルーズ船の数は昨年より4隻増えて15隻、観光客も18%増えて1,423人となったそうだ。わたしの参加したクルーズは、シーズン最後なのでプエルトプリンセサには戻らず、カガヤン諸島とアポ島を経由してセブ島に行くというルートを辿った。ゲストの中には、盛りだくさんのこのルートを狙って、通常のトゥバタハ・クルーズではなく、この最後のトリップに参加したという人もいた。日本からはマニラ経由でプエルトプリンセサまで、ほぼ1日かけて移動し、1泊した後クルーズ船に乗り込む。

クルーズ初日は夜の出航までの時間、プエルトプリンセサ近郊でのダイビングかホンダベイでのジンベイザメツアーを選択できる。わたしは迷わずジンベイザメツアーに参加することにした。2年前、エクスマスでその半開きの口に迫られて以来、すっかり虜になってしまったからだ。午前7時にホテルのロビーに集合し、ダイビングチームとジンベイザメツアーチームに分かれて出発。ガイドの話では、ここ2週間ほど、ジンベイザメは目撃されていないとのこと。「あまり期待しないでください。ジンベイザメが見られなくても代金は返却しません」と念を押されるが、なお、高まる期待は抑えられない。

出航後十数分、果たしてジンベイザメツアー中のわたしたちの前には、イルカがびょんびょん飛び跳ねている。軽く100頭は超える群れ。船の両側で併走してくれたり、ちょっと船の下に隠れてはまた出てきてくれたりするので、一同大興奮。

しばらくしてイルカがいなくなると、今度は目を凝らして、小魚が集まって海面が波立っているところや、鳥が集まっているところを探す。小魚が集まっているのはプランクトンが豊富な証拠で、ジンベイザメもそのプランクトンを狙って現れる可能性がある。小魚が集まっているところには、それを餌にする鳥たちが集まってくるので、鳥も目印になる。

その後、鳥の群れは何度か見かけるが、近づいてもそこにジンベイザメの姿はない。地元の漁師の話では、今朝早く一瞬姿を見たけれど、すぐに深く潜ってしまったとのこと。とうとう諦めて、島に上陸してのランチとスノーケルに予定変更となった。

以前、エクスマスでジンベイザメツアーに参加したとき、ジンベイザメが海面近くまで上がって食事するのは午前が中心なので、お昼を過ぎると遭遇確率がかなり低くなると聞いたのを思い出した。ホンダベイのジンベイザメは、今朝はお腹いっぱいだったのかな。だからもう深く潜ってしまって上がってきてくれないのかな。わたしだってちょっと食欲がない時は、買い物に出かけないで冷蔵庫にあるものでごはんを済ませる日がある。買い物に来るわたし(ほとんど週末だけ)を待っているスーパーの店員がもしもいたら、きっとがっかりしていることだろう。

帰りの船では、もうイルカに興奮することもなく(せっかく来てくれたのにごめんね)、暑さでややぐったりとしながら、近づいてくるパラワン島をうつろな眼でぼんやりと眺めていた。他のゲストも多くがお昼寝タイムを過ごしていたその時、船のスピードが突然緩くなった。なんだろうと頭を上げると、右手前方に黒っぽい影とさざ波が。

ジンベエだ!!!

あわててフィンを履き、マスクをつける。船で寄れるところまで寄って、ジャンプ!

そこにいたのは、体長6〜7メートルのジンベエ。大きさから推定すると、大人になったばかりだろうか。美しい水玉模様、小さな眼、そして愛らしい半開きの口。

ジンベエは、ものすごく口をパクパクさせて、わたしたちのことなどお構いなしに、海面近くを行ったり来たりしている。今朝少食だったから、きっと今ごろになってお腹が空いて、一生懸命ごはんを食べているのだろう。わたしもジンベエについて行こうと力いっぱい泳ぐ。

しかし、悠然と泳ぐジンベエとは対照的に、わたしの方は、それはそれはもう必死。カメラを構えた手も安定しなくて、ときどき海面からザバッと出てしまう。帰国してから、この時の動画を見せた友人の感想のほとんどは、「よく泳いだんだね・・・」。あんなに頑張って撮った(つもりだった)のに、とぎれとぎれに映ったジンベエの雄大な姿よりむしろ、それを追いかけて奮闘するわたしの姿(直接映ってはいないけど)の記録になってしまった。でも、ジンベエがわたしの方に向かって突進してきたときのあのドキドキは、どんなに上手く撮れたとしても伝え切れなかったと思う(負け惜しみではない!)。

この後もジンベエは何度も船の近くに来てくれるので、その度に海に飛び込んだ。最後は少し小さい子どもの(?)ジンベエも来てくれたのに、もうわたしたちの方に泳ぐ元気がなくなってしまうほどだった。船の上から、「バイバーイ。お互い大きくなって、また逢おうねー。」と挨拶をして、晴れやかな気持ちでブーツを脱いでみると、必死に泳いだわたしの足はフィンずれで流血の惨事。それでも、わたしは母船につくまでうっとりしっぱなしで、隣の人としゃべることすらできなかった。船全体の雰囲気も、さっきまでとはうってかわって、幸せオーラでいっぱいに包まれていた。

トゥバタハ・クルーズは、こうして最高のスタートを切ったのだ。

(つづく)

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