知はうごく 第1部 著作権攻防:

vclub2007-02-05

嘉門達夫好きっすよ!w

パロディー 試される文化の奥深さ

意外にも実入りは少ないという嘉門達夫が替え歌を歌い続けるのは「人を楽しませたいから」。1万5500部が売れたという「ドラえもんの最終回」の作者に対しては刑事告訴も検討されている。

「今から歌うから聞いてください。パロディーは文化なので、ぜひご理解を──」

 歌手の嘉門達夫氏は、電話口に向かってそう言うと、ギターをかき鳴らして歌った。

 平成3年に発売した「替え唄メドレー」が大ヒットして以降、替え歌のシリーズを20作もCD化した中で、元歌の著作権を持つ作曲家、作詞家から替え歌の許諾を得るために続けてきた努力の一例だ。

 1曲の替え歌には15〜20曲の元歌があり、すべてで著作権者の了承を得なければCD化はしない。ただ、最初は、どこの扉を叩けば交渉できるのかもわからず、試行錯誤の連続だった。手紙を書いたり、カセットテープやミニディスクに録音して送ったり…。「そんな風に替え歌にしてくれるんですか」と喜ばれたことも、「絶対に改変は認めない」と拒絶されたこともあった。

 「誰も知らない素顔の…」と大物女性歌手の化粧をパロディーにした替え歌では、元歌の作詞・作曲者に加え、歌詞に登場する女性歌手にも許可を求めた。「大変失礼ですが」と恐る恐る切り出すと、女性歌手の事務所は「彼女は薄化粧なんですけどね」と釘を刺しながら、替え歌にすることを快諾してくれた。

 テレビのコマーシャル・ソングを替え歌にしたいと申し入れた大企業が、幹部会議を開いて可否を検討してくれたこともあった。

 断られても、「なぜですか」と食い下がったりせず、「わかりました」と引き下がることにしている。「僕はオリジナル曲も作っているので、作者の気持ちはわかる」と嘉門氏。「断った側の言い分の方が、正しいことが多い」とも言う。

 CDが売れても、著作権料は元歌の作曲、作詞家に入る仕組みにしたため、労力の割に実入りは少ないのが悩みだ。それでも替え歌を作るのは「人を楽しませたいから」。笑いの文化を追求しつつ、元作品も尊重する嘉門氏の姿勢が、盗作とは違う良質の「パロディー」を生んでいる。


東京でデザイン関連の事業を営むスイス人、オリバー・ライケンシタイン氏は昨年12月、米IT(情報技術)業界の勢力図を東京の地下鉄路線図になぞらえ、批評的に表現したパロディー地図「ウエブ・トレンド・マップ2007」をインターネット上で公開した。

 地下鉄の各路線を「テクノロジー」「コンテンツ」「マーケティング」などITの動向に置き換え、その分野で有力な企業群が路線上に分布するよう描かれている。また、グーグル、ヤフーなどの巨大企業の周囲には、傘下の関連会社が群がるなど、IT業界を知る人がみれば、誰もが感心するようなユニークな構図だ。

 地図やデザインとしての完成度も高く、実際に東京の地下鉄路線図を制作した地図専門会社でさえ「よくできている」と舌を巻いた。

 だが東京メトロは、アルファベットの「M」をアレンジした同社の商標が無断で、上下逆さまに描かれていることが、著作権法や商標法に抵触する可能性があるとして、削除要請などの対応を検討中だ。

 これに対し、オリバー氏は「要請があれば削除する」と前置きした上で、「私の事業は東京メトロと競合していないし、制作した地図で経済的利益も得ていない」と主張。「このパロディーは国際的な常識に照らして問題ないはずだ。東京メトロにとっても宣伝になるのに…」と、パロディーの文化性や効用を強調する。

 実際、ネット上に公開されこのパロディー地図には、日本よりも海外からのアクセスが多く、東京の地下鉄の認知度向上に一役買っていると言えそうだ。オリバー氏は「インターネットは、リラックスした、ユーモアのある世界。法律を杓子定規に当てはめる考え方は、ネットの現実から乖離している」とも訴える。

 フランスは著作権法でパロディーを容認し、米国にも批評などには作品の無断利用を認める「フェアユース」の条文があるが、日本には模倣やパロディーを許容した明確なルールがない。権利保護と創作がせめぎ合う中で、各国の文化の奥深さが試されているかのようだ。

模倣が生む才能
 トラブルで動かなくなったドラえもんを蘇らせようと、猛勉強してロボット工学者になったのび太くん。未来の世界でドラえもんを製作したのは、実は、大人になったのび太くんだった──。

 こんなストーリー展開で「ドラえもん 最終話」と銘打った漫画本が平成17年末、ひっそりと発売された。ある漫画家が、ネット上や電子メールで流布されたうわさ話を描き、同人誌として制作したものだ。

 その感動的な結末は、ネットなどを通じたちまち評判になり、数百部でヒットとされる愛好者向け市場では異例の1万5500部が出荷された。

 マンガ・コラムニストの夏目房之介氏は、最終話を読んで「僕も泣いた。ドラえもんへの愛情にあふれる作品」と高く評価している。

 ただ、この作品はドラえもんの版権を持つ小学館の許諾を得ていなかった。既存の漫画のキャラクターを利用して別のストーリーを作った場合、ドラえもんという絵柄を使っているために著作物の利用となり、許諾が必要だ。同社は「悪質な著作権侵害」と判断して昨年、漫画家側に販売中止と回収、ネット公表の中止を要請。損害賠償についても交渉中で、関係者によると刑事告訴も検討されているという。

 小学館は「ネットで評判になり、部数がケタ違いに増えた。厳しく対応せざるをえない」(知的財産管理課)と明かす。


 漫画愛好者の間では、人気作品の登場人物、舞台設定を借用して独自作品を描く「二次創作」の手法が多用されている。

 東京で毎年2回開かれている同人誌即売会コミックマーケットコミケ)」には、全国からアマチュア漫画家ら約40万人が作品を持ち寄り、売買する。その多くが、原作者に許可を得ていない二次創作が占めている。

 そうした現状を、夏目氏は「オタクと呼ばれる人たちには、作品全体よりもキャラクターが関心の対象になりやすい。好きなキャラクターを自分の意のままに描き、動かしたい−という思いが(二次創作の)原動力となり、同人誌のほとんどを占めるようになってしまった」と分析する。

 原作の著作者に無断で二次創作を制作することは、法的には著作権侵害だが、コミケでは長い間黙認されてきた。その理由の一つは、イベントが巨大化し過ぎて、もはや取り締まりが不可能になってしまったことだ。

 一方、「コミケからプロの漫画家が輩出される」(大手出版社)という事情もある。模倣や改竄(かいざん)を重ねたアマチュア漫画家が、人気作家へと成長する例は数多い。コミケを追及すれば、人材供給が絶たれ、将来の漫画界を支える人材が育たないというジレンマに陥る。このため漫画出版社側は「模倣や二次創作を見つけても、数百部程度の流通なら目をつむってきた」のが実情だ。

 近年は、社会全体で法律の認知度や順法精神が高まったことや、漫画からアニメ、キャラクタービジネスへと媒体を超えた作品展開が増えたことから、著作権を厳密に管理する傾向が強まっている。同人誌が新たな著作権紛争を生む可能性も膨らんだ。

 しかし夏目氏は、「ポップカルチャー(大衆文化)に模倣やパロディーは付きもの。それを切り捨てると、文化そのものが細くなってしまう」と指摘し、「同人誌のようなケースには、著作権者から簡単に許諾をとれるようなシステムが必要」と提言している。


私が作った地図「Web Trend MAP 2007」は、今年のIT業界の勢力図を予想したパロディーです。皆さんに、年賀状のあいさつ代わりに見てもらおうと、昨年末に公開しました。

 グーグルは、若いしヒップで力強い企業なので渋谷のイメージ。ヤフーは大企業だけど、ちょっと素敵でなくなってきたので、池袋にしました。マイクロソフトは、もはや古い企業なので上野。アドビは今年、新しいソフトウエアを出して盛り上がりそうなので、銀座です。

 ミクシィを「マーケティング路線」に置いたのは、SNSがよりマーケティング性を強めると思ったから。会社や場所にはいろいろな意味があるので、完璧なマップにはならないけれど、なかなか面白いでしょ?

 この地図を、東京メトロが問題だと考えていることには驚きました。

 私はブランド戦略を仕事にしているので、ブランドの大切さはいつも考えています。法律のことも大体わかります。この地図に東京メトロのマークを上下逆さまにして使ったのは、ちょっとした驚きを加えたかったからです。それが問題かどうか、地図を作る時に少し考えましたが、パロディーだから問題ないと思いました。「M」のマークも、180度ひっくり返せばWになりますからね。これはパロディーの国際的な慣習に照らしても、問題ないはずです。

 それを私や、私の会社のブランドマーク(商標)にすれば問題になります。「この地図をプリントしたTシャツを作って、売ってほしい」という依頼もありましたが、営利目的で使っても問題になります。でも、私はタダで公開しているし、東京メトロとわれわれは同じビジネスではないので競合もしません。東京メトロは、株式会社といっても公共的な存在であり、みんながよく知っているからこそ、パロディーの題材にしたのです。

 東京メトロから削除を求められれば、素直に応じます。反抗することで有名になろうというつもりは全然ありません。

 ただ、この地図をたくさんの人が見れば、メトロ側にとっても、いい宣伝になると思いますよ。ネットを通じて日本よりも海外の人によく見られています。インターネットでWeb Trend MAP 2007と検索すれば、5万以上のブログがヒットし、私も驚きました。海外の多くの人が、東京の地下鉄路線図のパロディーを楽しんでくれています。

 これでもし怒るなら、インターネット的な思考ではないですね。インターネットには、実社会とは別の世界観が広がっています。そのフィロソフィー(思想)は「リラックス」だと思っています。

 保守的な人は「ルールがない」とか「怖い」とか言うけれど、ネットの世界にもルールはあります。例えば、文章をどんどんコピーできるといっても、出典や引用元を明らかにしなければなりません。パロディーはいいけれど、ウソや詐欺はダメ。常識は守らなければなりません。

 また、トライ・アンド・エラーもネットのフィロソフィーです。工業製品では失敗は許されませんが、ネットではOK。ポジティブ・アティチュード(前向きな態度)が、インターネットのルールになっていくことでしょう。

 ネットのルールは、だれにでもわかるコモンセンス(常識)がベースになっていて、実用的です。むしろ文章化された法律の方が、常識からかけ離れていることがあります。

 最近、アップル社が米国で発売した「iPhone」をパロディーにして、「iPhone Nano」と「iPhone Shuffle」のデザインをホームページで公開し、たくさんの人に見てもらっています。ただ、デザインの盗用に厳しいアップル社からは、何のお咎めもありません。

 ネットの世界で成功するためには、賢くなければいけないし、楽しくなければいけません。知的なユーモアが必要だと私は考えています。(談)
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0702/05/news046.html